珍獣?ニセモノ?カモノハシに関する一考察

カモノハシ…。ほとんどの人が、「あ、あれね」と連想はできるだろう。

ただ、実物を見たことがある人となると、どれだけいるのだろう。どこの動物園や水族館にもいます、というタイプの動物ではないし、自然の中のカモノハシを見たことがある人となると、生息地であるオーストラリアに住んでいる人でもそれほどいないはずだ。

絵でよかったら、オーストラリアではいつでも見られる。20セントのコインを手に入れればいいだけだ。

いつでも見られる、と書いてしまったが、実はこの2020年ではそうもいかなくなっている。それというのも、ここオーストラリアではCovid-19の影響で現金を扱うのはリスキー、という認識が高まり(誰が触っているかわからないからなあ…)、現金を受け付けないお店も多いし、人々もなるべくカードや携帯を使って支払いをするようになった。

ということで、現在に限って言えばコインを手に入れるのはややハードルが高いかもしれない。まったく、カモノハシの絵すら簡単に見られないなんて、なんていう世の中になったのだろう!

とりあえずコインの写真を張っておきます。

 

 

この写真を撮るために今回初めてこのコインをつらつらと眺めたが、カモノハシの下半身が描かれていないではないの。水面下に隠れている、ということなのかもしれないが、日本人の感覚ではカモノハシの幽霊?となる。

単なる手抜き、という説もあるが…。

ああ、それから今思い出したが、シドニーオリンピックのオフィシャルマスコットの一人(?)がカモノハシで、Syd the Platypus というのがお名前だった。オーストラリア特有の動物で、シドニーは生息地に含まれているので適切な選考である。

カモノハシのようにスイスイと泳いでメダルをたくさん取ってね~、という期待も込められていたのかもしれない。

それにしても、シドニーオリンピックっていつの話?この年にシドニーにいた人間としては忘れようもない2000年だ。もう20年も前の話かよ…トシ取るわけだわ。

 

 

 

閑話休題。

そうそう、野生のカモノハシの話をしていたのだった。なぜ実物を見るのが大変かというと、まず、この動物はオーストラリアにしか生息していない。野生のカモノハシを見たければ、オーストラリアまで来なければどうしようもない。

オーストラリアというのは特殊な大陸なので、ここでしか見られない動物、というのは他にも沢山いる。でも例えばカンガルーなどはちょっと田舎に行けばそこら中にいる。

カンガルー目撃体験で一番驚いたのは、キャンベラの国会議事堂からそう遠くない閑静な住宅地で、かなり大きなカンガルーが新聞配達員のごとく道路をホッピングしているのを見た時だ。幻覚でも見てしまったのかと思いましたよ。

後日その目撃情報を興奮してキャンベラが地元の友達に伝えたら、彼女は「ああ~、あいつら、いつもそうなんだよね、まったくうざったい」と、まるで野良猫がそこらを歩いているようなノリで返事をしたのには驚いた。キャンベラって、一応オーストラリアの首都なんですが。

カモノハシはそうはいかない。町から離れたきれいな水が流れる場所に行かないとまずお目にかかれない。しかもこいつはめちゃくちゃ臆病なので、もし生息地に行ったとしても辛抱強く静かに待っていないと目撃できない。

そんな時間と暇はないから動物園で見ればいいや、と思うかもしれないが、それも簡単ではない。彼らは薄暗い水槽のどこかに隠れていてなかなかヒトの前には姿を現さない。

運良く泳いでいるカモノハシを見たあなたは、その見た目を裏切る速さで水中を泳ぐ様に驚かされるだろう。手足を体にピタリとつけ、身体をぐにぐにとうねらせて泳ぐさまは、あたかも魚雷が目標に向けて突っ走るようだ。毛皮が水を弾くように出来ているのだろうか、そこにきれいな気泡が付いていて美しい。水槽を行ったり来たりするカモノハシを見ていると飽きません、目が疲れるけど。

 

カモノハシは、ヨーロッパ人がオーストラリアにやって来るまでは平和に暮らしていたのだろうと思う。原住民のアボリジニにとっては、すばしっこいので捕まえにくいし、食物としても実入りがあまりなさそうだし、毛皮はかなり高品質だけどあまり大きくないからちょっと…って感じで、わりあい無視されていたのではないかと、勝手に推測する。

ヨーロッパ人が入植した後も、捕まえて剥製にでもする以外は使いみちがなさそうだけど、おそらく羊や犬や猫といった外来の動物が入ってきたり、手付かずだった野原が牧草地になったりして生態系が変わってしまい、数が減ってしまったのではないかなあ。動物園などで飼育繁殖させるのも簡単ではなさそうだ。

それにしても変な動物だ。哺乳類のくせに卵を産む。哺乳類のくせにくちばしがある。初めてカモノハシを見たヨーロッパ人は、さぞ頭をひねったことだろう。

もちろん、彼らにとってオーストラリアの動物ってどれもが「ヘンなやつら」だけど、コアラにしてもカンガルーにしても、一応は「想定内」じゃないかと。

カンガルーは、馬と羊の中間(そんなことない?)と思えば納得できるし、コアラなんかは、いまだに「コアラベアー」なんて呼ぶヒト(特にアメリカ人、なんでか知らんけど)もいるように、キュートなクマのような外観だ。

でも、カモノハシはねえ…。頭と手足はアヒルに似てるし、胴体はラッコとかカワウソとかと大体一緒。でもそれが一つの個体として結合されているなんてことがあっていいものなのだろうか。

実際にオーストラリアからイギリスに送られたカモノハシの剥製は、ニセモノだ!と断定されたそうだ。

「何だこの動物の剥製は!頭がアヒルで、胴体がカワウソのようじゃ。これはどこから送られてきたんだね?」

「は、新植民地のオーストラリアからでございます」

「ふーむ、いや、これはイカサマじゃよ。どうせ誰かがアヒルとカワウソかなにかの剥製をつぎはぎしたのに違いないわ!そもそも、オーストラリアといえば流刑囚のたまり場じゃろ。そんなところにいる奴らは、たとえ政府の役人でもロクなもんはおれせんわ。どうせ暇を持て余した奴らが、本国の人間をからかってやろうと企んだのに違いないわ…ったく、この忙しいときに…」

「はあ、そういう可能性もございますなあ…。では、この剥製はどうなさいますか?」

「んなもん、そこらへんにほおっておけ~!」

…なんて会話がかわされていたのではないだろうか。

でも、カモノハシ、可愛いですよ。シドニーなら、タロンガ動物園に住んでいます。

ただ、可愛いと思って油断してると、後ろ足には犬を殺せるくらいの毒を持った爪があるので、まあ実際に出くわしたり捕まえたりすることはないでしょうが、どうぞご注意を。