新潟乱闘顛末記(生まれてはじめてパトカーに乗った話)

前回、はりぃ氏が「ポリスに撃たれた人の話」を書いてましたね。

別に張り合うわけじゃないけどオレはパトカーに乗せられたことがある。それも、社会科見学で乗っけてもらったとかいった微笑ましい理由ではなくて、しっかりと、「え~、署まで同行願います…」という流れでパトカーに乗せられました。

せっかくだから(なにが)、今回はその経緯を振り返り、過去の恥を晒してみます…

 

大学生の時、新幹線の車内販売というバイトをしていた。ちょっとテツ分高めの青年だったのでね。その時の話は長々と別の場所で書いたけど。

 

ある日のシフトは、「新泊(にいはく)」であった。これだけでは何のことやら分からぬが、新潟泊りのシフトってこと。

つまり、夜の下り新幹線でビールとか弁当とかを売りつつ新潟へ行く。もう上りの新幹線は終わっているので、新潟にあるJR関連の宿泊所に泊まり、翌朝の上り新幹線で今度は主にコーヒーやサンドイッチを売りつつ東京に戻るという業務内容である。

 

もちろん若いバイトどもがおとなしく宿泊所に直行して寝るわけがなく、新幹線を降りて仕事を片付けた後は、居酒屋ーカラオケー寮に戻って2次会(3次会?)というパターンが多かった。いや、よく飲んだなあ…あの頃は。

 

さてこの夜は仲の良いメンツが男子4名、女子2名揃っていた。

「よ~し、飲み行くぞ!」ということで、居酒屋に行って飲み食いし、時々行くカラオケボックスに行った。

日曜の晩だったので、少し待つことになった。各ボックス盛り上がっていて、お酒もよく売れているようだった。

 

廊下で、だべりながら待っていると、向かいのボックスからあんちゃんが出てきて、イチャモンを付け始めた。

 

「おめぇら、何ジロジロ覗き込んでんだよ」

 

早く終わらないかな~、と思って無意識に見ていたのかもしれないが、覗き込んでいたわけではない。

 

「いやあ、見てないですよ」とオレは答えたが、その丁寧な答え方が気に食わなかったようで、あんちゃんは「見てません、だとぇ?」と更に絡んできた。いや、コレは嫌だわ、と下腹がピクピクとしてきた。

 

手を出されるかな、と思ったが、奴はオレの友達の方に矛先を向け、同じような質問をし始めた。あちらのグループの連れの女性が奴を連れ戻そうとはしたものの、イキってしまった奴は増長し、しつこく友達にまとわりついた。

 

やべえな、と思った途端、奴はオレの友達に平手打ちを食らわした。

…反射的に、友達は吸っていたタバコを奴の頬に押し付けた…タバコの先から火花が散ったのが見えた…気がした。

その後は断片的な記憶しかない。気がつくと、友達の目の上が切れて、血が派手に流れていた。

「うわ、これはなんとか止めなきゃ…」

と、オレは相手を後ろから抱きかかえるようにして押さえたが、もちろんひ弱なオレがそんなことをしても激昂したアンちゃんには効果なし。いとも簡単に振りほどかれ、額にパンチを食らった。幸いかすった程度ですんだが、その後は髪の毛を掴んで引きずられ、足蹴を食った。オレはそもそも闘う意図はないから、早々に白旗を揚げ、とりあえず顔だけは隠し、床に転がった。

 

相手グループの女性が、「タバコはないじゃない!」とか叫んでいるのが聞こえてたが、オレは床に転がったまま、「ああ~、流血とかしてねぇといいけど…」と思っていた。

 

一難去ったようなので顔を上げ、よっこらせと立ち上がると、もう大きな格闘は終わっていたが、今度はどっちに落ち度があるかという口論になっていた。友達はもうちょっとやられたのか、顔の左半分が血まみれになっていて、シャツにも赤いものが散っていた。

 

相手はとにかく友達がタバコを押し付けたのが完全に悪いと言い張り、ふた言目には例の、「オモテ出ろやぁ!」というセリフを吐いた。あれ、本当に言う人がいるんだなあ…そんなことがフト頭に浮かんだ。

 

オレは打算的なので、とにかくこの場を立ち去って、バイト先にバレないようにしたかったが、店の店長は「もう警察呼んだから」と言い、帰らせてくれそうもない。

そうこうしているうちに警官がどかどかとやってきた。かなり大掛かりで、6,7名はいただろうか。ヘルメットをかぶった警官もいた。こうして我々は一網打尽となったのである。

 

警官はその場でグループを分け、事情を聞き始めた。あちら側は、この場に及んでも「なに嘘こいてんだ!オモテ出ろぃ!」と叫んでいた。アホやなあ…。

 

もう喧嘩もおさまったことだし、ここで因果を含められて解散…と思いきや、「署まで同行願います」ときた。あちゃ~。

 

というわけで、人生初のパトカー乗車、となったわけだ。

 

今になって思えば、またとない機会だから「ほー、これが例の…」としげしげと見回すべきだったか、と思うが、そりゃあ動転しまくってるんだから、実はほとんどパトカーの中については覚えていない。

 

よく知らない新潟の街をパトカーはしばらく走り、夜更けの警察署に着いた。そしてオレは取調室のような小さな部屋に連れられた。あ、テレビで見たとおりだな、とくだらないことを考えた。

 

そして、警察官と1対1で事情聴取をされた。自分で言うのも何だが、こいつは喧嘩をするような奴ではないというのが相手にも分かったのか、まあ穏やかに、「ふんふん、そうね~」という感じで進んだ。動揺しているせいか、前後の流れは意外と覚えていないもんだな、と思った。

 

ただ、同僚もどこかでおそらく取り調べを受けているのだろうが、それが分からないので、ちょっと不安だ。しかも傷を負ってたしなあ…。

 

しばらくすると、警察官はどっかに行ってしまった。おいおい、オレを一人にしないでくれよ。

 

あのあんちゃん達もこの建物の中で取り調べを受けているはずだ。いくら警察署の中にいるとはいえ、逆恨みをした奴らが逆上してこの部屋に乱入してきたらどうするんだ~!と不安になり、とりあえずもう一脚あった折りたたみ椅子を手元に近づけた、念のため…。

 

まあそんなことはもちろん起こらず、警官は戻ってきてこう言った。

「ま、ケンカ両成敗ってことで、事件扱いにはしないから、これが終わったら帰っていいよ。でも、あなたは一応被害者だから、訴えることもできるけど、どうする?」

 

もちろん、そんなヤヤコシイことはしたくない。被害者…といっても額に擦り傷ともいえないこすれ跡が赤くなっているだけだし、まあ髪の毛を一掴み失ったが、幸い毛は多いので問題ない。

「いや、そんなのはいいです(はよ帰らせてくれ)」

 

ということで無罪放免?となった。その後、友達は病院に連れて行かれ、オレも付添った。彼は結局切った場所を何針か縫う羽目となった。

 

 

その後のことはよく覚えていない。いやあひどい目にあった…と流石に意気消沈して宿泊所に戻っておとなしく寝て、翌日の新幹線で普通に業務をして東京に戻ったんだろうなあ。

その友達にもずっと会っていないけど、元気でやっているだろうか?